第三十五景
花の北屋上 惜別遠望
まもなく一旦閉店する花の北・イオン姫路店の屋上から、夏霞の白鷺城を遠く望む
北斎が市井から富士を描いたように、白鷺城もまた暮らしの風景の中にある。まもなく一旦閉店する花の北・イオン姫路店の屋上駐車場から、400mm相当の望遠で夏霞の天守を遠望した。この夏を最後に、もう撮れなくなるかもしれない一景。
物語
北斎の富嶽三十六景には、市井の暮らしの向こうに富士を描いた景がある。白鷺三十六景もまた、名所からの一枚だけでなく、日々の風景の中にふと現れる城を掬い取りたいと思ってきた。この一景は、そんな一枚だ。
私がまだ高校生の頃だっただろうか。野里駅にほど近いその場所に、ニチイという大きなスーパーがオープンした。同時期に花の北モールというのもあったような記憶もあるが、もう数十年前のことでよく覚えていない。姫路の駅前まで出るよりも、家からはずっと近い。時は流れ、そこはやがてイオン姫路店——通称・花の北のイオンとなり、赤みがかったピンクの屋根もいつしか色褪せ、通路を行き交う人の姿もめっきりまばらになっていた。
そのイオンが、この2026年8月末をもって、ひとまず幕を下ろすという。建て替えのための休業で、次に扉が開くのは何年か先になるらしい。友人夫婦と連れ立って、三人でその閉店セールに足を運んだ。ふと屋上の駐車場へ上がってみると、色の抜けかけたピンクの案内看板——「くるま」の「く」の字の、その脇の隙間の向こうに、白鷺城が浮かんで見えた。
三脚を据え、SL2-Sに200mmのレンズ、そこにテレコンを噛ませて400mm相当。城まではおよそ2キロ。望遠らしい圧縮の効いた夏の霞の中に、天守と、その麓のマンションと、看板のピンクとが、不思議な取り合わせのまま一枚に収まってくれた。
この場所からこの構図は、もう二度と撮れないのかもしれない。閉店とともに、屋上への扉も閉ざされる。日常のすぐ隣にあった名城の眺めが、またひとつ、静かに姿を消していく。
暮らしの風景の中の、白鷺城。白鷺三十六景、第参拾五景。
撮影のヒント
- 場所イオン姫路店(花の北)屋上駐車場。姫路城の北北東 約2km、最寄りは野里駅。
- 撮影のヒント200mmにテレコンを重ねた400mm相当で、約2kmの距離を圧縮。手前の駐車場サイン(ピンクの「くるま」の「く」)をあえて前ボケに入れると、暮らしの中の名城という趣が出る。三脚推奨。
- 惜別イオン姫路店は2026年8月末で一旦閉店(建て替えのため休業)。屋上からのこのアングルは、しばらく撮れなくなる。