台北は、笑顔と美食でできていた
Taiwan — 2026年6月

台北は、笑顔と美食でできていた

台北

台北 2026年6月 写真 17枚

エバー航空で関空から台北へ。台北で2泊して、台北から香港へ。「旅マガジン」と銘打っておきながら、観光地の写真がほとんどない旅行記になりました。

今回、私の記憶に残ったのは、景色ではなく顔でした。台北で出会った人たちの顔と、その横にいつもあった一品。
撮らせてもらった顔がたくさんあるので、今日はそれを主役に置きます。

そもそも、なぜ台北だったのか

今回の台北行きには、はっきりしたきっかけがありました。
私の“飛行機の師匠”が二人とも、同じ時期に台北にいたのです。

一人は、香港でお世話になっているケータイ研究家の山根博士。
Computex(台北で開かれる巨大なIT見本市。今年は6月2〜5日でした)の取材で台北入りしていました。山根さんは、私がJAL系のJGCを取るときに、背中を押してくれた人。

もう一人が、metroさん。
私のSFC・JGC修行に度々付き合ってくれた、文字どおりの飛行機の師匠です。metroさんは毎年6月の頭、台北の駅弁フェアに来るのが恒例になっています。

その二人が、たまたま同じ週に台北で重なる。これを知ってしまったら、もう関空からエバーに飛び乗るしかありません。三人で同じ時間を過ごせたのは、出来すぎなくらいラッキーな巡り合わせでした。

一杯目は、山根さんと牛肉麺

妻と一緒の台北なら、台北駅にほど近いシーザーパーク台北(Caesar Park Taipei)を選ぶのが我が家の定番です。

けれど一人旅となると話は別で、できるだけ安く上げたい。そんな私に山根さんが教えてくれたのが、台北駅から徒歩圏のYork Design Hotelでした。ロケーションは文句なし、部屋も一人なら十二分。

台北は、笑顔と美食でできていた

ただ山根さんのおすすめは歪な形状の「地下フロア」で、今回はあいにく満室で普通のフロアに回され、ちょっと残念。
ただ一人旅の宿としては上等でした。

私が York Design Hotel にチェックインしたときに山根さんは部屋で仕事中だったので、さっそく合流して向かったのは、台北駅からほど近い劉山東牛肉麵。1951年(民国40年)創業、ミシュランのビブグルマンに2年連続で選ばれた老舗です。最初の一杯は紅焼牛肉麺。お値段230元(約1,050円)でした。

わたしは基本的にどこでも清燉(チンドン)ではなく紅焼牛肉麺
わたしは基本的にどこでも清燉(チンドン)ではなく紅焼牛肉麺
入店時は空いてましたが食べ終わる頃には満席でした
入店時は空いてましたが食べ終わる頃には満席でした

ただ正直に言います。台湾も、もう昔ほど安くないです。
この「あれ、台湾ってこんな値段だったっけ?」が、この2泊、最後まで付いて回りました。安いから台湾、という時代は、たぶんもう終わりかけています。それでも私がまた来るのは、結局、値段の話をしていないからなんですよね。

おにぎり屋の、おばあさんの「漢気」

翌朝の朝ごはんは、紫米のおにぎり。朝から店先には行列ができていて、20〜30分待ち。並んだ甲斐のある、香港のチーファン(粢飯)に近い、もちっとした米の甘さでした。

台北は、笑顔と美食でできていた

切り盛りしているのは、年配のご夫婦です。ただし、完全に店を仕切っているのはおばあさんのほう。「こうしてほしい」という客の注文を一切受け付けない、殺気にも似たオーラをまとって、黙々と握っています。その横で、たぶん旦那さんでしょうか、おじいさんのほうは優しいオーラしか出ていない。この緊張と緩和の二人体制が、なんともいいのです。

行列はファミマの前で折り返してここまで来てます
行列はファミマの前で折り返してここまで来てます

一人前がやけに大きかったので、思い切っておばあさんに「半分に切ってもらえます?」と頼んでみました。返ってきたのは、「できないよ」のひと言。

……おにぎりは切らない主義、でも私の注文は見事 一刀両断でした。

頼めるのは、おにぎり一つだけ。豆乳も、卵も、半分こも、ありません。サービス精神という言葉とは無縁です。でも私は、この潔さにすっかり痺れてしまいました。女性に「漢気」と言うと叱られるかもしれませんが、あのおばあさんのそれは、もう漢気としか言いようがない。切ってくれなくて結構です、そのままありがたくいただきます。

姫路の人間が、台北で明石の駅弁に1時間並ぶ

台北車站の大ホールで、ちょうど駅弁フェア(第11屆 鐵路便當節)が開かれていました。台湾の鉄道弁当に混じって、日本各社の駅弁ブースがずらり。

駅弁フェア中の台北駅内は大混雑
駅弁フェア中の台北駅内は大混雑

ここで私が1時間並んで手に入れたのが——よりによって、淡路屋の「ひっぱりだこ飯」でした。

台北は、笑顔と美食でできていた

姫路から新快速で40分、神戸の駅弁です。明石の蛸が主役の、あの蛸壺に入ったやつ。お値段450元(約2,100円)。日本で買えば1,400円なんですけどね。差額の700円は「台北で食べた」という体験料に加えて台北特別版蛸壺で納得しておきます。

わたしの後ろで並んでいた素敵な笑顔のお兄さん、私の肩にもこの鶏さんを乗っけてくれました。
わたしの後ろで並んでいた素敵な笑顔のお兄さん、私の肩にもこの鶏さんを乗っけてくれました。

姫路の人間が、香港から飛行機に乗って、台北まで来て、明石の駅弁に1時間並ぶ。自分でも何をやっているのか分かりません。でも蛸の吸盤の艶も、しいたけと筍の出汁も、冷めても落ちない食感も、さすが駅弁の王者でした。蛸壺は持ち帰れるので、香港の机でペン立てになる予定です。

四人の食卓と、壁いっぱいのモノクロ写真

夜は、四人での食卓になりました。冒頭に書いた二人の飛行機の師匠——山根さんと metroさん——に、北海道から来た たけもとさんを加えた顔ぶれ。三人が台北で重なった、その夜です。

四人で囲んだのは、台北の老德記。壁一面が、民国時代の将軍や政治家のモノクロ写真で埋め尽くされた、ちょっと不思議な牛肉麺屋です。

当然私は牛肉麺
当然私は牛肉麺

それぞれ好きな一品を自分用に、そして真ん中にシェア用の桜海老のチャーハンと酢漬けのキュウリ。

左上から時計回りに わたしの牛肉麺、チャーハン、店内風景、キュウリです
左上から時計回りに わたしの牛肉麺、チャーハン、店内風景、キュウリです

この桜エビチャーハンが全員一致で大当たりで、「これは台湾でしか食べられない」。香港でも日本でも、この味には出会えません。台湾にまた来る理由が、一つ増えました。

その写真の壁が、私はなんとも好きでした。名前までは分からない顔も多いのですが、誰かの記念写真が、麺をすする私たちをずっと見下ろしている。店の歴史が、そのまま壁になっていました。

店頭写真
店頭写真

あまりに美味しかったので、お会計のときにオーナーらしき方に「一枚いいですか?」とお願いすると、「いいよ」とあっさり受けてくれました。撮らせていただいた一枚を画面でお見せしたとたん、ふっと表情が変わって「ちょっと待って」。耳に挟んでいた競馬予想屋さんが構えているような、あの青いペンを外し、「コレでもう一枚撮ってくれ」と笑うのです。いやもう、その可愛さに痺れました。リピ確定です。

ペン差しのほうがこのおじさんらしさがでてる気がするが、彼の美意識ですよね。
ペン差しのほうがこのおじさんらしさがでてる気がするが、彼の美意識ですよね。

食後、麺屋の対面にある小さなショップをのぞいたら、山根さん・metroさん・たけもとさんの三人がいきなり盛り上がり始めました。

並んでいたのは台湾HTCがまだ世界を取りに行っていた頃、Motorolaがまだアメリカの会社だった頃のスマホ関連のノベルティや非売品——いわばスマホ史の遺品です。「これ、あの時もらったやつだ」「これ持ってた!」と、業界の人にしか分からない湯気のような会話が、向かいの店でゆらゆらと立ちのぼっていきます。

台北は、笑顔と美食でできていた

私はと言えば、横で眺めながら「あ、ここは私の出る幕じゃないな」と素直に思いました。HTC UniversalやHermesの手触りも、Motorolaがまだハードを作っていた頃のラインナップも、頭の中にはちゃんと残っています。でも私は生粋の「新もん好き」。思い出より、明日発表されるかもしれない一台のほうに心を奪われてしまうたちなのです。それでも、人が昔を思い出して笑っている横顔は、見ていて気持ちのいいものでした。

とても魅力的な笑顔
とても魅力的な笑顔

そんなとき、ふと顔を上げると、このショップを切り盛りしている奥様でしょうか——はにかんだ笑顔がこちらに向いていました。「こちらを向いてくれますか?」とカメラを構えても、ちょっと恥ずかしそうに目を伏せて笑う。その控えめさが、かえって表情を引き立てていて、思わず一枚撮らせていただきました。スマホ史の遺品がぎっしり並んだ棚の奥で、その笑顔だけが「いま」を生きている——この一枚が、私にはこの店でいちばん「現役」に見えました。

ちなみに たけもとさん、ご自宅でワンちゃんが待っているので長くは離れられず、この日の夕方に台北入りして、その日の深夜便で東京経由・北海道へとんぼ返り。台北滞在、実質5〜6時間の弾丸です。また会いたい人が一人増えました。

ドローンに集まる視線

台北では、ドローンも少しだけ飛ばしました(飛ばせる場所の細かい話は、別途 drone.jp の連載で書きました)。

興味津々のご家族
興味津々のご家族

DJIストアのスタッフの方に「ここから歩いて10分の公園なら飛ばせますよ」と教わって、その通りに行ってみたら、案の定家族連れが興味津々で寄ってきました。台湾では香港や中国ほどドローンを見かけないらしく、みんなの視線が一斉にプロペラの方を向く。一緒に画面をのぞき込んで、ちょっとした撮影会になりました。

顔を撮らせてくれた人、ドローンを一緒に見上げてくれた人。人の視線が集まる瞬間は、それだけで旅の絵になるんだな、と思いました。

最後は、中壢のピーナッツと、ピースの女の子

帰る日には、桃園市の小さな街・中壢(ジョンリー)まで足を延ばしました。お目当てはピーナッツ屋さん。量り売りの落花生に、落花生と黒胡麻のソフトクリーム(80元)。妻へのお土産にも、ピーナッツを400元分。

台北は、笑顔と美食でできていた

そして忘れられないのが、お店でサービスしてくれた女の子。こちらにカメラを向けると、満面の笑みでピースを返してくれました。最後の最後に、いちばん元気な一枚をもらった気分です。

台北は、笑顔と美食でできていた

妻が台湾を好きなのもあって、こうして台湾の味を香港に持って帰るのが、最近の旅の定番になりつつあります。

「次どこ行く?」の答え

景色の写真がほとんどない旅記になりました。でも振り返ると、今回の台北は顔と食でできていたな、と思います。

牛肉麺の湯気の向こうの山根博士。私の注文を一刀両断したおにぎり屋のおばあさん。ペンを構え直した麺屋のご主人。スマホ史の棚の奥ではにかんだ、ショップの奥様。古道具に目を輝かせる三人。ドローンに集まる家族の視線。最後にピースをくれた中壢の女の子。

「次どこ行く?」と聞かれたら、私の答えはたぶんいつも同じです。次に出会う人と、美味しいものがあるところ。

📍 この旅で立ち寄った場所

York Design Hotel(約克設計旅店)|台北駅すぐ・一人旅の宿

劉山東牛肉麵|1951年創業・ミシュランビブグルマン(日曜定休・現金のみ・台北駅徒歩5分)

紫米おにぎりの店|あのおばあさんの一本勝負

老德記(牛肉麵)|壁一面に民国の偉人写真/対面にスマホ史の古物店

張豐盛商行(中壢)|老舗のピーナッツ屋・花生芝麻ソフト

もっと読む

この旅を「エバー航空とSFC」の視点で書いた対の記事は「SFC修行の旅」へ。台北に2日“途中降機”した仕組みの話を書こうと思います。

ガジェット本編・旅行TIPSは「俺流トラベルガジェット」で全部無料公開しています(記事の前半が無料パート)

香港の現地ネタは「香港レンズ」で詳しく

書ききれなかった最新ネタ・後日談・失敗談は、俺流トラベルガジェット有料メンバー限定Discord「焚き火を囲んで」で随時共有しています。参加方法はこちらの有料記事でご案内しています。

初出(note):台北は 笑顔と美食でできていた
← 2025年6月 目次 旅の一覧へ →