ゴールドラッシュが建てた、中国の洋館
中国・広東省にある世界遺産、開平に行ってきました。
十九世紀、カナダとアメリカはゴールドラッシュと大陸横断鉄道の建設で、大量の労働力を必要としていました。ちょうどその頃、開平の一帯では客家との争いから逃げ出した農民が、大量の移民として労働力にあてられ、カナダやアメリカへ流入します。そこで儲けたお金で故郷に洋風の楼閣を建てた——それがこの地域だけに、一種独特の街並みをつくったのだそうです。
だからこれらの建物は、中国にあるのに洋館です。しかもお金があったので、世界中から様々なものを集めて作られている。畑と山しかない風景の中に、いきなり尖塔が突き出しているのを最初に見たときは、目の焦点が合わないような妙な感じがしました。


絵になる街、赤坎古鎮
開平にはこの楼閣のほかに、赤坎古鎮(Chikan Town)という、香港の映画にもよく使われる絵になる街があります。川沿いにアーケードのついた建物がひたすら連なっていて、なるほど、そのままセットとして使えそうな眺めです。
絵になる街ということで、ちょっと絵画風に。

近づくと、一軒一軒はかなり草臥れています。剥がれた漆喰、錆びた鉄格子、そこに真っ赤な対聯だけが鮮やかで、その落差がまたいい。「景輝樓」と掲げた店の柱には、こんな対聯が下がっていました——看古人 及今人 看古 看今 人看人。

立園
立園は、謝維立氏が1926年より5年かけて造った庭園です。時代を考えると、信じられないほど贅沢な作りになっています。
庭に建つ館もやはり洋館で、しかし瓦屋根と中国式の欄干が当たり前のように混ざっている。どこの国の建物を見せられているのか、最後まで分かりませんでした。



誰も入れなかった、小さな建物
謝維立氏が作ったこの庭園のなかにあった、小さな建物が印象に残りました。
この頃の金持ちは、複数の奥さんをもっていたそうです。二番目の奥さんは十八で嫁ぎ、一年ほどで亡くなりました。それを悲しんだ謝氏が、奥さんの遺品を納めるために建てたのが、この建物です。

そして自分以外、誰も入ることを許さなかったそうです。
世界中から材料を集めて建てた家のとなりに、
誰も入れない小さな建物がひとつ。
ゴールドラッシュの金で洋館を建てた人たちの話を半日聞いてまわった最後に、この建物が出てきます。持ち帰った富で村じゅうに見せびらかすように建てた楼閣と、一人ぶんの記憶をしまうためだけに建てた小さな塔。同じ人が、同じ庭に、両方建てている。開平で一番よく覚えているのは、結局この落差でした。